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日本の数学 (岩波新書 赤版 (61))
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| 商品カテゴリ: | 物理学,化学,数学,地学,科学,学習,知識
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| セールスランク: | 204175 位
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碩学が語る和算の歴史と限界
大型書店の岩波新書創刊70年記念読者が選ぶ復刊20冊のコーナーで、本書に出会った。講話体の文章と写真図版が多く一方数式はほとんどないことから、消暑の1冊として手にしたが、暑さを忘れて一気に読み通した。
内容は和算の歴史で、江戸初期の京阪地方での勃興期から明治初期の洋算採用によって和算が廃滅するまでを扱っている。この間の、中国伝来の算盤による代数の「天元術」の改良から、未知数を記号とし筆算による代数「天ざん」の開発、無限級数を扱う「円理」への発展を、和算学者達のエピソードを踏まえまた興味深い図版を添えて記述する。
評者にとって感心したのは、数学史的発展よりも、徳川時代の社会や文化の変化の中で和算を論じ、その特異性や限界に触れている点にある。和算家のギルド性は柔剣術の道場や茶華道の家元制を彷彿させるし、道楽や芸としての和算は、和算家をして「無用の用」「芸に遊ぶ」ことを理想とさせる。このようなことが、江戸末期に高いレベルに達していながら、明治の開国で西洋数学に席を譲り歴史から姿を消すことになったのであろう。同じく、円理の開発者関孝和の天才性や独創性を評価はしているが、同時代に生きたニュートンの微積分との業績比較も明快である。
本書の初版は1940年とある。学術的内容は古びているかも知らぬが、70年前には数学史の碩学が一般向けにこんなにも丁寧に情熱を込めて本を書いていたことか、と感服した。
名著といわれるだけのことは
「名著であるが意外と専門的」とは和算史研究家の鈴木武雄氏(後掲書)の評です。私の入手したものは、発行から60年近く後の1998年の第41刷。これだけ版を重ねるのはやはり名著たるのゆえんでしょう。元来が1940年春という何とも微妙な時代のものですが、何らそうした印象は受けません。
ラジオ講演をもととしているので、章だても、第一日「和算のはじまり」、第二日「和算の発展」、第三日「和算の成熟とその特色」、第四日「和算の特色(つづき)と、洋算の輸入」、第五日「近代的数学の確立」となっています。著者はまえがきにあたる「読者諸君へ」で「一日分(1章のこと)を一時間半がかりで、ゆっくりと、五日間、お読み願えれば」と述べています。確かに無駄(あそび)のない詰まった書き方なので、じっくり読むのがよいのはもちろんですが、さーっと読んでもしまえると思います。それだけの読みやすさも併せ持っています。160頁余りと薄く、写真図版もたっぷりで手に取りやすいので、この「読者諸君へ」での、ほかにもある厳しいもの言いは気にせずに一読してみましょう。
そこでは、タイトルの数学史はもちろん、和算の内包した問題点など辛口に、端的にあらわしてくれています。ただし、現在となっては、その後の江戸時代研究や地方史研究の進展を無視できない面を含むように思われます。また、例えば「大衆のための数学」などは、視点の相違ともいえますが、川本亨二『江戸の数学文化』(岩波書店)と表裏をなすようにも思えます。やはり1冊で済ませようということなく、複数の本を併読する必要があります。
前掲、鈴木氏の「解説 和算の歴史を狭く閉じ込めておかないために」のついた平山諦『和算の歴史』(ちくま学芸文庫)や佐々木力氏の「解説」の付いた三上義夫『文化史上より見たる日本の数学』(岩波文庫)のように、しかるべきかたの解説がそろそろ必要なのではないでしょうか。
日本数学史に関する絶好の入門書??関孝和は、本当に微積分学を確立したか?
江戸時代については、永い間、その停滞の側面ばかりが強調されて居たきらいが有る。江戸時代に、そうした側面が有った事は事実である。しかし、江戸時代は、決して、そんな停滞ばかりの時代ではなかった事に、日本人は気が付くべきである。
江戸時代は、多くの思想家や科学者を生んだ時代であった。その中で、比較的良く知られて居るのは、『解体新書』を和訳した医師たちであろう。しかし、彼らの仕事は、確かに尊敬すべき物ではあったものの、その労力の多くは翻訳に費やされており、独創的とは言ひ難い。むしろ、宝暦13年(1763年)に、日食を予言、的中させた麻田剛立(あさだごうりゅう)等の天文学者や、本書で紹介される、円周や面積の求積で業績を残した安島直円などの和算家達の方が、すっと独創的であったと、私は、思って居る。
本書は、その江戸時代の和算を中心に、日本の数学史を概観した啓蒙書である。内容は、和算家達の計算等に深入りはして居ないが、非常に分かり易い。日本数学史の入門書として、絶好の好著である。??入門書ではあるが、関孝和の業績をニュートンやライプニッツの微積分学と同等か、或いはそれ以上の物であったかの様に見なす一部の日本人見方を戒めて居る点など、貴重な解説が多い。
ただし、和算とヨーロッパの数学の関係については、書かれた時代(1964年改版発行)を反映して、記述が不十分である。この問題については、平山諦(ひらやまあきら)氏の『和算の誕生』(1993年)を併せて読まれる事をお勧めする。
(西岡昌紀・内科医)
岩波書店
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